近年、スペシャルティコーヒーの世界でその存在感を急速に高めている「ホンジュラスコーヒー」。かつてはブレンドの脇役として語られることが多かったこのコーヒーが、今や世界中のコーヒー愛好家から熱い視線を集めています。中央アメリカ最大のコーヒー生産国の一つとして、その広大な土地と多様な気候が育むコーヒーは、驚くほど豊かな表情を見せてくれます 。
この記事では、そんなホンジュラスコーヒーの魅力の核心に迫ります。その基本的な味わいの特徴から、品質を決定づける格付けのシステム、個性あふれる生産地域ごとの違い、そして家庭でそのポテンシャルを最大限に引き出すためのヒントまで、包括的な旅へとご案内します。なぜ今、ホンジュラスコーヒーがこれほどまでに注目されているのか、その理由を解き明かしていきましょう。
ホンジュラスコーヒーの基本：その奥深い魅力と全体像を解き明かす
ホンジュラスコーヒーを理解するためには、まずその基本的な性格を知ることが不可欠です。ここでは、味わいや香りの根幹をなす要素から、品質を保証するシステム、そしてその風味を生み出す背景にある品種や製法まで、多角的にその全体像を紐解いていきます。
バランスの取れた味わいの秘密：甘み・酸味・香りの特徴
ホンジュラスコーヒーの最も大きな魅力として挙げられるのが、その卓越した「バランス感覚」かもしれません。多くのホンジュラスコーヒーは、特定の風味が突出することなく、甘み、酸味、コクが見事に調和しており、非常に飲みやすい口当たりを持つ傾向があります 。
具体的には、カラメルやミルクチョコレートを思わせるような、優しく上品な甘みが土台に感じられることが多いようです 。そこに、強すぎないフルーティーな酸味が加わることで、味わいに立体感と爽やかさが生まれます。後味はすっきりとしており、雑味が少ないため、毎日飲んでも飽きのこないクリーンな印象を与えるかもしれません 。香りに関しても、甘いカラメルのようなアロマに加え、時には柑橘系やナッツのような香ばしいニュアンスが感じられることもあり、飲む前から心地よい期待感を抱かせてくれます 。
この「バランスの良さ」は、ホンジュラスコーヒーが持つ大きな強みです。ストレートで飲めばその調和の取れた味わいを純粋に楽しむことができますし、ブレンドコーヒーのベースとして用いれば、他の豆の個性を邪魔することなく、全体の味わいをしっかりと支える土台としての役割を果たします 。
こうした親しみやすい特性は、スペシャルティコーヒーの世界への扉を開く「案内役」としての役割を担っていると考えることもできるでしょう。スペシャルティコーヒーに興味を持ち始めたばかりの方が、いきなり際立った酸味や複雑な風味を持つコーヒーに出会うと、少し戸惑ってしまうかもしれません。しかし、ホンジュラスコーヒーの持つ穏やかでバランスの取れた味わいは、そうした方々にとっても抵抗が少なく、コーヒーが本来持つ甘みや豊かな香りを素直に感じさせてくれる可能性があります 。いわば、多くの人々をより奥深いコーヒーの世界へと誘う、理想的な「ゲートウェイ（入口）」のような存在と言えるかもしれません。
品質を左右する「標高」：SHG・HGに分類される等級（グレード）とは
ホンジュラスコーヒーの品質を語る上で欠かせないのが、栽培地の「標高」に基づいた格付けシステムです 。コーヒーの木は、標高が高い冷涼な環境で育つと、果実がゆっくりと時間をかけて成熟します。この長い成熟期間が、コーヒー豆の中に複雑な風味成分や糖分を蓄積させ、結果として密度が高く、味わい深いコーヒーが生まれる要因となると考えられています。特に、質の良い酸味はこの環境で育まれやすいとされています 。
ホンジュラスでは、この標高を基準にコーヒー豆を主に3つの等級（グレード）に分類しています。
| 等級 (Grade) | 正式名称 (Full Name) | 栽培標高 (Cultivation Altitude) |
| SHG | Strictly High Grown (ストリクトリー・ハイ・グロウン) | 1,200m以上 |
| HG | High Grown (ハイ・グロウン) | 900m～1,200m |
| CS | Central Standard (セントラル・スタンダード) | 600m～900m |
最高等級である「SHG」は、最も標高の高い厳しい環境で栽培されたことを示し、一般的に最も高品質なコーヒーとして扱われます。この等級制度は、消費者にとって品質を見極めるための一つの分かりやすい指標となります。
このシンプルな格付けは、単なる農業上の分類以上の意味を持っています。コーヒーの品質は、土壌、降雨量、日照時間、精製方法など、無数の複雑な要因によって決まりますが、一般の消費者がそれらすべてを理解するのは困難です。しかし、「標高が高いほど高品質」という直感的に理解しやすい基準を設けることで、生産者から焙煎業者、そして消費者まで、誰もが品質について共通の言葉で語れるようになります。これは、農産物であるコーヒーの価値を市場で的確に伝えるための、非常に優れたマーケティングツールとしても機能しているのです。特別な日に少し贅沢なコーヒーを選びたい時、「SHG」という表記は、その期待に応えてくれる一つの道しるべとなるでしょう。
多様な風味を生み出す主要な栽培品種：ブルボン種からカトゥーラ種まで
ホンジュラスで栽培されているコーヒーは、基本的に高品質なアラビカ種です 。その中でも、様々な栽培品種（ヴァライエタル）が育てられており、それぞれがホンジュラスコーヒーの多様な風味プロファイルに貢献しています。
代表的な品種としては、まず「ブルボン種」と「ティピカ種」が挙げられます 。これらはアラビカ種の原種に近く、古くから栽培されてきた伝統的な品種です。特にブルボン種は、豊かな甘みと芳醇なコク、複雑な風味を持つことで知られ、スペシャルティコーヒーの世界で高く評価されています 。ティピカ種もまた、クリーンで上質な酸味と甘さを持ち合わせているとされます 。これらの品種は、病害虫に弱いなどの栽培上の難しさがあるものの、その卓越した風味から、今もなお大切に育てられています 。
一方で、より生産性に優れた近代的な品種も広く栽培されています。ブルボン種の突然変異である「カトゥーラ種」は、樹高が低く収穫しやすい上に、豊かな酸味と独特の風味が特徴です 。また、カトゥーラ種とムンドノーボ種を交配させた「カトゥアイ種」は、雨風に強く、安定した収穫量が見込めることから、中南米の主要な品種の一つとなっています。味わいは酸味が控えめで、しっかりとした甘みとボディが感じられる傾向があります 。
ホンジュラスの農園で見られるこれらの品種の混在は、単なる農業の選択以上の物語を語っています。それは、コーヒーが持つ最高の風味ポテンシャルを追求する「品質」への情熱と、厳しい経済環境の中で安定した生活を築こうとする「現実」との間で、生産者たちがいかにバランスを取ろうとしているかの証左と言えるかもしれません。伝統的なブルボン種やティピカ種を守り育てることは、ホンジュラスコーヒーの品質の高さを世界に示すことに繋がります。同時に、カトゥーラ種やカトゥアイ種のような生産性の高い品種を導入することは、多くの小規模農家の生活を支える上で不可欠です。この絶え間ない試行錯誤こそが、ホンジュラスコーヒーの多様性と力強さを生み出しているのです。
究極のスペシャルティ体験：希少なホンジュラス産ゲイシャ種の世界
ホンジュラスコーヒーの品質ポテンシャルの高さを象徴するのが、希少品種「ゲイシャ種」の栽培です。エチオピア起源とされるこの品種は、その驚くほど華やかで複雑な香味から「コーヒーの香水」とも称され、世界のスペシャルティコーヒー市場で最高級品の一つとして位置づけられています 。
ゲイシャ種は、ジャスミンやベルガモット、アールグレイティーを思わせるような圧倒的なフローラルな香りが最大の特徴です 。味わいは非常に繊細で、柑橘系の果実やピーチのようなジューシーな酸味と、蜂蜜のような甘い余韻が感じられます。その風味は従来のコーヒーのイメージを覆すほど個性的で、まるで上質な紅茶を飲んでいるかのような錯覚を覚えることさえあるかもしれません 。
しかし、この素晴らしい風味と引き換えに、ゲイシャ種は栽培が非常に難しく、収穫量も少ないことで知られています 。特定の高地の気候条件でしかその真価を発揮できず、丁寧な手入れが不可欠なため、その希少価値は非常に高くなっています。
ホンジュラスでは、「エル・プエンテ農園」をはじめとするいくつかの先進的な農園がゲイシャ種の栽培に成功し、国際的な品評会「カップ・オブ・エクセレンス（COE）」で優勝するなど、世界的な名声を獲得しています 。カルディなどの店舗でも、COEに入賞したホンジュラス産のゲイシャ種が限定販売されることがあり、その品質の高さをうかがい知ることができます 。
ホンジュラスが世界トップクラスのゲイシャ種を生産できるという事実は、国全体のコーヒー産業にポジティブな「ハロー効果（後光効果）」をもたらしていると考えられます。一つの最高級品が存在することで、ホンジュラスという生産国全体のイメージが向上し、「あの素晴らしいゲイシャが育つ国なのだから、他のコーヒーもきっと高品質だろう」という期待感を醸成します。ゲイシャ種は、その価格や希少性から誰もが気軽に楽しめるものではないかもしれませんが、ホンジュラスコーヒー全体の品質と可能性を世界に示す、強力なブランドアンバサダーとしての役割を担っているのです。
クリアな味わいの源泉：主流であるウォッシュド精製法とその他の製法
コーヒー豆は、収穫されたコーヒーチェリー（果実）から種子を取り出し、乾燥させる「精製」という工程を経て生豆になります。この精製方法が、コーヒーの味わいを決定づける非常に重要な要素となります。ホンジュラスで最も広く採用されているのは、「ウォッシュド（水洗式）」と呼ばれる精製法です 。
ウォッシュド製法では、収穫したコーヒーチェリーを水槽に入れ、果肉を機械で除去した後、水に浸けて豆の周りに残った粘液質（ミューシレージ）を発酵・分解させてから、水で洗い流して乾燥させます。この工程により、豆本来の風味がダイレクトに現れ、雑味が少なく、クリーンで爽やかな酸味が際立つ味わいに仕上がると言われています 。ホンジュラスコーヒーが持つ「すっきりとした後味」や「クリアな味わい」という特徴は、このウォッシュド製法が主流であることが大きく影響していると考えられます。
一方で、近年のスペシャルティコーヒー市場では、より個性的で複雑な風味を求める声が高まっています。その流れに応えるように、ホンジュラスの意欲的な生産者たちは、ウォッシュド以外の精製方法にも挑戦しています。例えば、果肉の一部を残したまま乾燥させる「ハニープロセス」や、果実のまま乾燥させる「ナチュラルプロセス」は、果実由来の甘みやフルーティーな風味が強く感じられる傾向があります 。さらに、タンク内で酸素を遮断して発酵させる「嫌気性発酵（アナエロビック・ファーメンテーション）」のような先進的な技術も導入されており、これまでにないユニークな香味プロファイルを生み出しています 。
この動きは、ホンジュラスの生産者たちが、単に伝統的な製法を守るだけでなく、市場のニーズを敏感に捉え、自らのコーヒーの価値を高めるために積極的に「革新」を続けていることを示しています。精製方法は、彼らにとってコーヒーの個性を表現するための創造的なツールであり、その探求心がホンジュラスコーヒーの新たな可能性を切り拓いているのです。
風味を最大限に引き出す焙煎度：浅煎りから深煎りまでの可能性
農園で育てられ、精製されたコーヒー豆のポテンシャルを最終的に引き出すのが「焙煎」です。焙煎度合いによって、同じコーヒー豆でも全く異なる表情を見せることがあります。ホンジュラスコーヒーの場合、その特性をどのように楽しみたいかによって、おすすめの焙煎度は変わってきます。
ホンジュラスコーヒーが持つフルーティーな酸味や、カラメルのような繊細な甘い香り、産地特有の個性を楽しみたいのであれば、「浅煎り」から「中煎り」が適しているかもしれません 。浅煎りにすると、コーヒー豆が本来持っている酸味の質が際立ち、爽やかで軽やかな味わいになります。アメリカンコーヒーのようにすっきりと楽しむのにも向いています 。中煎りは、酸味と苦味、甘みのバランスが最も良くなるポイントとされ、ホンジュラスコーヒーの調和の取れた味わいを堪能するには最適な選択肢の一つと言えるでしょう 。
一方で、ホンジュラスコーヒーは「深煎り」にも耐えうるしっかりとした骨格を持っています。深煎りにすると、特徴的だった酸味は穏やかになり、代わりに香ばしさやビターな風味、しっかりとしたコクが前面に出てきます。この特性を活かし、ブレンドコーヒーのベースとして深煎りのホンジュラスコーヒーが使われることも少なくありません 。
焙煎は、いわばコーヒー豆という素材に対する「解釈」の行為です。浅煎りという解釈は、「この豆の価値は、その繊細な酸味と産地の個性にある」と表現するものです。対照的に、深煎りという解釈は、「この豆の価値は、他の風味を支える安定したコクとバランスにある」と表現するものと言えるかもしれません。つまり、一杯のコーヒーの味わいは、生産者が育てたポテンシャルを、焙煎士がどのように解釈し、表現するかというコラボレーションによって生まれるのです。このことを知ると、焙煎度の違いを意識してコーヒーを選ぶ楽しみが、さらに深まるのではないでしょうか。
ホンジュラスコーヒーの選び方と楽しみ方：産地から一杯の淹れ方まで
ホンジュラスコーヒーの基本的な特徴を理解したところで、次はいよいよ実践編です。数あるホンジュラスコーヒーの中から自分好みの一杯を見つけるにはどうすればよいのか、そして、その魅力を家庭で最大限に引き出すにはどうすればよいのか。ここでは、具体的な選び方から楽しみ方までを掘り下げていきます。
個性豊かな6大生産地域を巡る：マルカラ、コパン、サンタバルバラなど
「ホンジュラスコーヒー」と一括りに言っても、その広大な国土では地域ごとに気候や土壌が異なり、栽培されるコーヒーの風味も実に多様です。ワインの世界で産地（アペラシオン）によって味わいが異なるように、コーヒーもまた産地ごとの「テロワール」が個性を生み出します。ここでは、ホンジュラスを代表する6つの生産地域とその風味の特徴をご紹介します。
| 生産地域 (Region) | 主な風味の特徴 (Key Flavor Notes) |
| コパン (Copán) | チョコレートのような甘さ、クリーミーなボディ、バランスの取れた味わい |
| モンテシージョス/マルカラ (Montecillos/Marcala) | 明るい柑橘系の酸味、フルーティーで甘い香り |
| サンタ・バーバラ (Santa Bárbara) | トロピカルフルーツやシトラスの明るい酸味、複雑で深みのある風味 |
| エル・パライソ (El Paraíso) | フローラルな香り、ベリーや柑橘系のような爽やかな風味、クリーンな後味 |
| コマヤグア (Comayagua) | 甘くフルーティーな香り、クリーミーな質感、柑橘系の余韻 |
| アガルタ (Agalta) | トロピカルフルーツのような風味、チョコレートやキャラメルのような甘い香り |
例えば、グアテマラとの国境に近い「コパン」地域では、チョコレートを思わせる甘みとしっかりとしたコクが感じられる、バランスの良いコーヒーが生産される傾向があります。一方で、ホンジュラスで最初に原産地呼称制度が導入されたことで知られる「マルカラ」を含む「モンテシージョス」地域では、オレンジのような明るい酸味が特徴的なコーヒーが生まれます 。
このように、生産地域ごとの特徴を知ることは、自分の好みに合ったホンジュラスコーヒーを見つけるための強力な羅針盤となります。もしあなたが、しっかりとした甘さとコクを求めるならコパン産のものを、爽やかでフルーティーな酸味を楽しみたいならマルカラ産やサンタ・バーバラ産のものを選んでみる、といった具体的な選択が可能になります。
この地域ごとのブランディングが進んでいること自体が、ホンジュラスのスペシャルティコーヒー産業が成熟期に入っている証拠とも言えるでしょう。国全体のブランドイメージを確立した次のステップとして、各地域が独自の個性を打ち出し、特定の風味を求める世界のバイヤーと直接結びつこうとしています。これは、より多くの生産者が正当な評価と対価を得るための重要な戦略であり、私たち消費者にとっても、コーヒー選びの楽しみを一層深めてくれる動きなのです。
身近な店舗での出会い：カルディやスターバックスで見つけるホンジュラスコーヒー
ホンジュラスコーヒーの魅力は、専門店だけでなく、私たちの身近な店舗でも発見することができます。代表的な例として、カルディコーヒーファームとスターバックスが挙げられます。
カルディでは、年間を通じて様々な産地のコーヒーを取り扱っており、ホンジュラスもそのラインナップに頻繁に登場します。例えば、「ホンジュラス スイートアフター」のような、甘い余韻が特徴のオンラインストア限定商品が販売されたことがあります 。さらに特筆すべきは、国際品評会「カップ・オブ・エクセレンス（COE）」で入賞した、非常に高品質で希少なホンジュラスのコーヒー豆が、数量限定で販売されることがある点です 。これは、ホンジュラスがトップクラスのスペシャルティコーヒーを生産していることを、多くの消費者に知らしめる良い機会となっています。
一方、スターバックスでもホンジュラスコーヒーは様々な形で提供されてきました。通常店舗で販売される「ホンジュラス マルカラ」のような、オレンジブロッサムやマカダミアナッツを思わせる風味を持つ、比較的アクセスしやすい商品があります 。それに加えて、一部の限定店舗で展開される「スターバックス リザーブ®」という高級ラインでは、「ホンジュラス CAFICO」のような、特定の生産者組合によって作られた希少なロットが紹介されることもあります 。このコーヒーは、明るいシトラスのような香りと軽やかなコクが特徴とされています 。
このように、大手チェーンがホンジュラスコーヒーを二つの異なるアプローチで扱っている点は興味深いかもしれません。通常商品として広く提供することで、多くの人々に「ホンジュラス」という産地の名前と、その安定した品質を認知させることができます。これが市場での基盤を築く「量」の戦略です。同時に、リザーブやCOEロットのような限定品を通じて、その産地が持つ最高のポテンシャル、つまり「質」の高さをアピールします。この二つの戦略が連動することで、ホンジュラスコーヒーは、幅広い層のコーヒーファンに対して、信頼できる産地でありながら、時には驚くような発見もある、という多面的な魅力を効果的に伝えているのかもしれません。
おすすめの淹れ方とペアリング：コーヒーの魅力を引き立てるヒント
お気に入りのホンジュラスコーヒー豆を手に入れたら、次はその魅力を最大限に引き出す淹れ方や楽しみ方を探求してみましょう。
ホンジュラスコーヒーの持つクリーンな味わいや爽やかな酸味を活かすなら、ペーパードリップで淹れるのがおすすめです 。特に、少しお湯を多めにして抽出する「アメリカン・コーヒー」スタイルは、その軽やかな風味を存分に楽しむことができるかもしれません 。一方で、コーヒー豆が持つ油分（コーヒーオイル）まで余すことなく抽出し、しっかりとしたコクや質感を楽しみたい場合は、「フレンチプレス」が適しているでしょう 。
ペアリングについては、ホンジュラスコーヒーのバランスの良さがその万能性を発揮します。甘みがあるため、クッキーやケーキといったお菓子との相性は抜群です 。また、そのすっきりとした後味は、脂っこい料理や濃厚な食事の後に飲むと、口の中をさっぱりとリフレッシュさせてくれる効果も期待できます 。
ここで少し視点を変えて、現地の伝統的な飲み方に触れてみるのも面白いかもしれません。ホンジュラスでは、コーヒーにたっぷりの砂糖を入れ、トウモロコシの粉で作った甘いパンを浸して食べるという文化があるそうです 。これは、私たちがスペシャルティコーヒーに求める繊細な風味を楽しむ飲み方とは対極にあるように思えます。
この対比は、コーヒーという飲み物が持つ文化的な多様性を示唆しています。輸出先の市場では、生産者が丹精込めて育てた果実の風味や酸味をいかに引き出すかが追求されます。しかし、生産国の人々にとっては、コーヒーは日々のエネルギー源であり、甘さを楽しむ嗜好品としての役割が強いのかもしれません。どちらが良い悪いという話ではなく、一杯のコーヒーが置かれる文化的な文脈によって、その「理想の味」や「楽しみ方」は全く異なるという事実は、コーヒーの世界の奥深さを物語っています。
美味しさの裏側にある課題：ホンジュラスのコーヒー農園が直面する現実
私たちが楽しむ一杯の美味しいコーヒーの裏側には、生産者たちが直面している厳しい現実が存在することも、知っておくべき重要な側面です。ホンジュラスのコーヒー農家も、多くの課題に立ち向かっています。
第一に、経済的な圧迫が挙げられます。肥料や農薬、農機具といった生産に必要な資材の価格は上昇を続けており、生産コストは年々増加しています 。しかし、コーヒー豆の買い取り価格は、ニューヨークの国際市場で決められる「Cプライス」に大きく左右され、非常に不安定です。コストが上がっても、必ずしも高く売れるわけではないという厳しい状況が、農家の経営を圧迫しています 。
第二に、深刻な労働力不足です。特に、完熟したコーヒーチェリーだけを選んで手で摘み取る「ピッカー」と呼ばれる収穫作業員が、年々集まりにくくなっています 。より良い賃金を求めて都市部や他国へ出ていく人が増え、必要な人手を確保できない農園では、せっかく実ったコーヒーチェリーを収穫しきれず、生産規模の縮小を余儀なくされるケースもあるようです 。
第三に、気候変動の影響です。本来であれば一定期間にわたって降るはずの雨が短期間に集中して降ったり、異常な気温の低下がコーヒーの木にダメージを与えたりと、予測不能な気象パターンが収穫サイクルを乱し、収穫量や品質に直接的な影響を及ぼしています 。
さらに、「さび病」に代表される植物の病害も大きな脅威です。一度発生すると農園全体に広がり、収穫量を激減させてしまう可能性があります 。
これらの課題は、それぞれが独立しているわけではなく、互いに複雑に絡み合って、負の連鎖を生み出している点に深刻さがあります。例えば、気候変動は病害の発生リスクを高め、生産コストの上昇は、気候変動対策への投資や労働者への十分な賃金の支払いを困難にし、労働力不足をさらに悪化させます。この全体が連動した「システム的な危機」こそが、ホンジュラスのコーヒー生産の持続可能性を脅かす根本的な問題なのかもしれません。
未来へつなぐ一杯：サステナビリティとフェアトレードへの取り組み
前述のような厳しい課題に直面する中で、ホンジュラスのコーヒー生産者たちは、ただ手をこまねいているわけではありません。彼らは、より持続可能で、より良い未来を築くために、様々な革新的な取り組みを進めています。
最も重要な戦略の一つが、「品質」を追求することです。不安定な価格のコモディティ（一般商品）市場から脱却し、品質に基づいて価格が決められるスペシャルティコーヒー市場へ参入することで、より高く、より安定した収入を得ることを目指しています 。国際品評会（COE）への出品などを通じて自らのコーヒーの品質を証明し、世界中のバイヤーからの評価を勝ち取っているのです 。
また、焙煎業者などが生産者と直接つながり、長期的な関係を築く「ダイレクトトレード」も広まっています。これにより、生産コストを十分に賄い、農園への再投資や家族の生活向上に繋がる、透明性の高い公正な価格での取引が実現しやすくなります 。
消費者にとっても分かりやすい指標となるのが、「フェアトレード認証」や「オーガニック（有機）認証」といった国際的な認証制度です 。フェアトレード認証は、生産者に対して公正な価格が支払われていることや、労働者の権利が守られていることなどを保証する仕組みです 。これらの認証を受けたコーヒーを選ぶことは、私たち消費者が、生産者の持続可能な生活を支援するための具体的なアクションとなり得ます。
さらに、「CAFICO」や「RAOS」といった生産者組合（協同組合）の役割も非常に重要です 。小規模な農家が個々で品質管理や海外市場へのアクセスを行うのは困難ですが、組合を組織することで、知識や設備を共有し、共同で品質を高め、より大きな交渉力を持つことが可能になります。
これらの取り組みは、従来の「安く大量に」という価値観に基づいたコーヒー経済とは異なる、もう一つの経済圏を築こうとする試みと捉えることができます。それは、「品質」や「物語」、「倫理」といった付加価値に基づいた、パラレルなコーヒー経済です。この新しいシステムは、ホンジュラスのコーヒー生産者たちにとって、より強靭で、より収益性の高い未来への道筋を示しているのかもしれません。
ホンジュラスコーヒーの探求：本記事の要点まとめ
今回はホンジュラスのコーヒーについてお伝えしました。以下に、本記事の内容を要約します。
・ホンジュラスコーヒーはバランスの取れた味わいが特徴
・カラメルのような甘い香りが感じられることがある
・品質はSHGを最高等級とする標高で格付けされる
・標高が高いほど良質な酸味が育まれやすい
・主要な栽培品種はブルボン種やカトゥーラ種である
・希少品種ゲイシャは世界最高峰の品質を誇る
・主流の精製法はクリアな味を生むウォッシュド
・コパン地域はチョコレートのような風味で知られる
・マルカラ地域は柑橘系の明るい酸味が特徴
・浅煎りから中煎りが風味を楽しむのにおすすめ
・カルディやスターバックスでも購入可能
・濃厚な食事の後の口直しにも適する
・生産者は気候変動や労働力不足などの課題に直面
・フェアトレード認証は持続可能な生産を支える
・品質向上への取り組みが未来への鍵となる
この記事を通じて、ホンジュラスコーヒーの多面的な魅力に触れるきっかけとなれば幸いです。ぜひ、お気に入りの一杯を見つけて、その奥深い世界を旅してみてください。豊かなコーヒータイムが、あなたの日常をさらに彩ってくれることでしょう。
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